設立趣旨書(NPO法人 登記2023.10.25)

 わたしたちは第三者の立場から精神科病院に入院している方々の権利擁護活動を行うことを目的とする団体です。
 精神科病院は、身体疾患を扱う病院に比べ、特殊な環境にあります。たとえば、精神科病院では精神保健福祉法を根拠に強制入院を実施できます。本人に病識がない場合や、無理に病院に連れてこられた時などは、心理的に動揺しやすく、不安や緊張の面持ちで、説明を受け、理解できないまま、入院生活がスタートすることがあります。また、精神科病院では安全上の配慮からはさみ等の私物のチェックを受けたり、病院によっては服薬のために一列に並ばされたりするなど、人としての尊厳を傷つけられることがあります。さらに、入院者の状態によっては電話や面会、外出が制限されること、閉鎖病棟への入院になること、退院の目処が示されないこと、隔離や身体的拘束を受けること等があります。医療スタッフにとっては必然性のあることでも、入院者は疑問に感じることがあります。
 しかし、最初こそ戸惑いや不安を感じ、あるいは強制入院や行動制限に反発していた入院者でも、さまざまな制約を受け続けると、徐々にその環境に慣れ、特に、入院が長期化した場合は、退院の希望をはじめ、自分の意思を表明することをあきらめる状況が生じがちになります。それは、本来のその人らしい姿ではないはずです。
 多くの医療スタッフは、専門職として権利擁護を視野に入れ、日々の治療やケアにあたっているはずです。病院によって差がありますが、たとえば、病院内に人権擁護委員会を設置する、入院者の権利擁護に関する研修を行う、意見箱を置くなど、医療の進め方や療養環境の改善に努めています。
 しかし医療スタッフは、入院者の権利を常に第一に考えられない場合があります。入院者との立場の違いは明白です。医療スタッフは行動制限を行う人たちであり、入院者の側から見ると、本音で思いを語ることには不安がつきまといます。また、残念ながら精神科病院の中での虐待事案が全国各地で少なからず表面化しており、問題の根は深いと考えられます。
 だからこそ、利害関係のない第三者が本人の味方として行う権利擁護活動が重要です。その利点は、入院者が気兼ねなく本音を語れる点です。日常の治療やケアを受ける立場の入院者は、自分の治療環境が悪くなることを懸念し、医療スタッフにはなかなか本音を語れません。本人の味方という姿勢を明確にした第三者であれば、本当の気持ちを聞きやすくなります。また、本人自身の中でも明確になっていない困りごとや希望を引き出して寄り添い、さまざまな情報提供を行うことで、事態をより的確に認識し、改善の道筋が見える場合があります。本人が希望する場合は、院内の専門職や関係機関へ取り次ぎます。入院者が自分の希望を自覚し、主体的に意思を表明することは、治療環境全体を豊かなもの
へと変化させる可能性があります。そのような権利擁護に取り組むことをめざし、私たちは2022年10月、任意の市民団体として「どさんこコロ」を発足させました。
 どさんこコロの活動は、主に電話相談と面会活動を2本柱とします。
 電話相談は、精神科病院に入院中、または退院した方、また、家族、関係者等から話をうかがいます。改善の必要があることについては、可能な範囲で情報提供し、できれば本人自身が動き出せるよう支援を行います。病院に来てほしいという希望がある場合は面会活動につなげます。
 面会活動は、面会担当者2名が、直接、精神科病院を訪問し、入院者の話を丁寧に聴き、本人の考えに沿って一緒に考えます。また、外部の第三者が訪問することは精神科病院の密室性や閉鎖性を減らすことになります。医療スタッフの意識が向上し、見られても困らない良質の医療を提供することを心がけることにつながります。また、面会対象以外の入院者が相談をもちかけることもあり、潜在的に面会の希望を持つ方々と接点をもつことも期待できます。
 2022年12月の精神保健福祉法改正によって、あらたに入院者訪問支援事業が制度化され、2024年度から本格実施が可能となります。さしあたりは、強制入院の一つである医療保護入院のうち、外部との面会交流が乏しくなりがちな市町村長同意による入院者を中心に、訪問支援員2人が面会に出向くのが入院者訪問支援事業です。この事業は、わたしたちが取り組む精神科病院への面会活動と共通する部分が多いと考えています。
 今後、活動を進める上では、精神医療のユーザー、家族、医療専門職、福祉専門職、弁護士、教員、学生、ジャーナリスト、行政職員、その他精神医療に関心のある方々の協力が欠かせません。
 わたしたちは入院者の声を聴き、情報提供と権利擁護を通して、入院者の意思表明を支援し、精神科病院の密室性、閉鎖性を減らし、精神科病院が安心して利用できる場になることを目指します。 

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